ファスティング、日本語で言うなら断食ですね。

このファスティングは、古来より修行や治療の一環として行われてきましたが、近年ではダイエットの方法として注目されています。2014年に、たかの友梨ビューティークリニックのCMに起用されたスーパーモデルのミランダ・カーも、ファスティングを活用して美しさを保っているようです。ミランダ・カーは、ファスティングの1つである間欠的ファスティング(intermittent fasting:断続的にファスティングするという意味)を行なっているようです。

ファスティングに限らずダイエットで一番難しい点は、空腹感に打ち勝つということでしょう。ファスティングは断食ですから、正面から空腹感と対決しなければなりません。この空腹感を我慢するために、言い換えれば誰にでもファスティングを行えるように工夫されたファスティング法が、間欠的ファスティングなのです。間欠的ファスティングという言葉は、日本ではあまり馴染みがないようです。しかし、酵素ダイエットなどの置き換えダイエットも、間欠的ファスティングの1つであると言えます。

ここでは、実用的で継続しやすい間欠的ファスティングについて、その効果の科学的根拠や実際のやり方、注意点などについて解説します。ファスティングについては、根拠のない有用性や誤った知識も少なくないようです。そのため今回、ファスティングの効果効能として取り上げるものは、科学的根拠を学術論文から確認できるものに限定しています。健康的で効率的、かつ継続可能なファスティングができる手助けになればと思います。

ファスティングの効用

一般に、多くの有用性があると言われているファスティングですが、実際にどのような効能があるのでしょうか?ザーッと見ても、以下のような有用性があるとされています。

体重減少、インスリン(血糖低下作用)への感受性を回復する、脂肪を燃やす、レプチン(食欲低下作用)への感受性を回復する、胃腸や肝臓などの消化器の休息になる、寿命がのびる、BDNF(神経の成長を促進する成分)の増加、フリーラジカル(酸化ストレスの原因の1つ)の減少、オートファジー(細胞内で不要なタンパク質を分解して必要なタンパク質を作るための材料を作る仕組み)を促進する、成長ホルモンの増加、皮膚の健康に良い、Ⅱ型糖尿病を改善する、コレステロールを低下させる、中性脂肪を低下させる、デトックスになる、ガンに効果がある、精神的に活発になるなどの効用があるとされています。

体重減少と脂肪を燃やすことに関しては効果は確実です。ただし、ファスティングのやり方次第では不健康な体重減少が生じて、死亡例も報告されているので注意が必要です。死亡例については、著しいカロリー制限や栄養の不足により生じたものであるため、また、そこまで空腹感を我慢する忍耐力を持ち合わせている人は滅多にいないはずですから、ファスティングをして死んでしまうのでは?という心配はいらないでしょうね。しかし、不健康な痩せ方をする可能性は非常に多いと思われます。

ところで脂肪の燃え方は、実はファスティングする前の肥満度によって変わってくることをご存知ですか?

ロチェスター大学(米国)の研究によると、ファスティング(underfeeding)すると、痩せた人は太った人より、筋肉などの脂肪でない体の組織の量が多く減ってしまうことが分かりました。つまり、痩せた人が筋トレなどを行わずにファスティングすると、脂肪だけでなく筋肉も、太った人より多く減ってしまう可能性が高いということです。

また、ファスティングにより体重を減らすスピードによって、脂肪以外の体の成分量(筋肉などの量)や運動能力が違ってくるので注意が必要です。ノルウェースポーツ科学大学(Norwegian School of Sport Sciences)の研究では、アスリートを対象に、筋力強化トレーニングとともに厳しいカロリー制限をして早く体重を減らすと、筋肉などの脂肪でない体の組織の量が増えず、運動能力の向上も生じないことが分かりました。反対に、カロリー制限を半分の量にしてゆっくり減量したグループでは、筋肉などの脂肪でない体の組織の量が増えたうえに運動能力も向上しました。アスリートではない私たちが、筋トレをせずに急激なファスティングをすると、脂肪も減るけれど筋肉も減ってしまう危険があるということですね。

その他、ファスティングの効用であるインスリン感受性が回復することや、レプチン感受性の回復、胃腸や肝臓などの消化器の休息になる、寿命がのびる、BDNFの増加、フリーラジカルの減少、オートファジーを促進、成長ホルモンの増加、皮膚の健康に良い、Ⅱ型糖尿病を改善する、コレステロールを低下させる、中性脂肪を低下させるということも、どうやら確からしいことのようです。

ただし、ファスティングがデトックス効果があるか否かについては微妙です。マッコーリー大学のA.V.Kleinらが2015年にJournal of Human Nutrition and Dietetics.に寄稿したレビュー(過去の研究論文を総合的に考察したもの)によれば、完全断食からジュースファスティングの範囲でのファスティングと、下剤や利尿剤、ビタミン、ミネラル、デドックス作用のある食物を組み合わせるデトックスダイエットにおいてでさえ、デトックス効果についての臨床的証拠は、殆ど認められないとしています。どうやらファスティングのデトックス効果は、現時点では証明されていないようです。

また、ガンについてThe American Cancer Societyは、抗がん剤を投与中の患者にはカロリーとタンパク質をより多く取ることを推奨しています。しかし、南カリフォルニア大学のC.Leeらのレビューによれば、ファスティングにガン患者を守る効果がある可能性を指摘しており、ファスティングがガンに全く効果が期待できないとも言えないようです。

なお、ファスティングがメンタル面に及ぼす有益な作用についてここでは触れませんが、ファスティングをして体も軽くなり体調も良くなって、ダイエットを達成できたという満足感や体型の改善からくる自信などという要素は、確実にあなたの気持ちを明るく強くすることでしょう。

以上で述べたように、ファスティングには多くの有益な効果があることは間違いないようですね。しかし、やり方次第によっては不健康な体になってしまうこともあります。以下に、本記事で主題とする間欠的ファスティングのやり方と注意点について説明します。

ファスティングのやり方

間欠的ファスティングにも数多くのやり方があるようです。ここでその全てについて述べることはできませんが、代表的な間欠的ファスティングのやり方をいくつか簡単に説明します。

(1)16/8法

毎日、16時間だけファスティングする方法です。例えば、午後7時に夕ご飯を食べた場合、翌日は午前11時まで水やブラックコーヒー、あるいはカロリー成分が殆ど入っていない飲み物以外は口にしない、という間欠的ファスティングです。食べてもいい8時間のうちに食事は2〜3回して構いません。

ところで、16時間の時間限定のファスティング中、6〜7時間は睡眠中であり、食後に空腹感を感じるまでに2時間くらいはあるはずです。つまり、空腹感を我慢する時間は実質的には7〜8時間ということになります。しかも、この7〜8時間は朝と夜に分割されるため、連続して空腹感を我慢しなければならない時間は4〜5時間です。これなら食いしん坊さんでも実行できそうですね。

なお、パドヴァ大学(イタリア)の研究では、16/8法をアスリートに抵抗運動と併用させて行うと、筋肉の量を減少させずに脂肪を減少させることができるという結果が得られています。

(2)5:2ダイエット

1週間のうち2日だけファスティングする方法です。安心してください。2日ファスティングすると言っても、完全な断食ではありません。2日間のファスティング中も、500〜600Kcalは食べたり飲んだりしても構わないのです。ご飯1膳160gで269Kcalですから、ファスティングの日もご飯を2膳くらいは食べていい計算になります。しかし、ファスティングしている日はご飯2膳しか食べられないので、起きている間はずっと空腹感を我慢しなければなりません。我慢強く意志の力が強い人向きのファスティングかも知れませんね。

さて、この5:2ダイエットについて、健康情報提供サイトであるhealthlineのKris Gunnarsは、この方法の有効性に関して学術的に検証した研究報告がないとしています。しかし同時に、間欠的ファスティングが有用であるとの研究は十分にあるため、5:2ダイエットも推奨できるものであることをほのめかしています。

(3)戦士のダイエット

朝起きてから夕食までファスティングするファスティング法です。夕食を食べるまでの長い時間の間、少量のフルーツや野菜を食べることはよいとされています。そして待ちかねた夕食には、相当の量を食べても構わないのです。ただし、食べるものは精製されていないものか加工されていない食材に限ることが望まれるようです。白米より玄米にするとか、加工食品を避けるとかなどでしょう。なお、相当の量とはどれくらいの量であるかについては、他の間欠的ファスティングにも関係するため、後に取り上げるファスティングをするうえでの注意点のところで言及します。

(4)隔日ファスティング

1日置きにファスティングする方法です。ファスティングする日も、500Kcal(およそ米飯で2膳分弱)程度のカロリー摂取は許されています。完全に水以外の食物を絶ってもいいのですが、完全なファスティングを行えば、よほど意志が強い人でなければリバウンドして過食してしまうことになるのではないでしょうか。アバディーン大学(英国)のA.JohnstoneによるInternational Journal of Obesityへの寄稿によると、間欠的ファスティングあるいは隔日ファスティングは体重減少と、減少した体重を維持するための1つの選択肢としてよいのではないかとしています。

その他、1週間に1〜2日だけファスティングする方法や、忙しさや食欲に応じて食事を抜く方法など、他にも色々な間欠的ファスティング法があるようです。ここでは実行と継続のしやすい方法について取り上げました。

ファスティングをするうえでの注意点

間欠的ファスティングにかぎらず、ファスティング一般において最も注意するべきことは、カロリーと必要な栄養素を適度に補給しながらファスティングを行うということです。そして、筋肉量を減らさないために筋トレやサーキットトレーニングを、ファスティングとあわせて行うとよいでしょう。

まずは、1日の摂取カロリーについて解説します。ファスティングする日に、600Kcalなどと摂取カロリーが明示された間欠的ファスティング法を実行するとき、ファスティングしない日に無制限にカロリー摂取していい訳ではありません。

また、ファスティングを1日のうちのある時間帯だけ行う間欠的ファスティング法も含めて、1日に摂取していいカロリー総量は制限する必要があるでしょう。

その量は、厚生労働省が男女ともに標準としているBMI22.0の人が必要とするカロリーです。例えば、厚生労働省による「日本人の食事摂取基準(2015 年版)の概要」では、年齢30~49歳で活動量が普通レベルの男性における摂取カロリー基準は、1日あたり2,650Kcalです。1日あたりの平均摂取カロリーが必要量(性別・体格・年齢などにより異なります)を超えていれば、間欠的ファスティングをしても体重は減らないので注意してくださいね。

カロリー摂取量と同様に重要なポイントは、ビタミンやミネラルはもとより炭水化物や脂質、タンパク質など、健康を保つ上で必要な栄養素を必要量だけ摂取することです。厳しいファスティングでの死亡例は、栄養不良により死亡したと推定されています。間欠的ファスティングをしても、食べていいと設定された時間帯にファーストフードばかり食べていては、栄養不良で健康を損ねることになるので、栄養素の摂取について意識しましょう。

ところで、イリノイ大学の研究によれば、タンパク質の比率の高い食事をしてもらったグループ(タンパク質グループ)と、タンパク質の比率が低いグループ(炭水化物グループ)を比較すると、脂肪以外の体重に対する脂肪の割合(厳密ではありませんが体重に占める脂肪の割合を表す)の低下率は、タンパク質グループの方が大きかったとしています。つまり、食事におけるタンパク質の割合を多くすると、脂肪が減りやすいということが示されたのです。ファスティングするときにも、食事に含まれるタンパク質の割合を増やすことが望まれます。ABCbodybuilding.comの創設者であるJ.Wilsonは、タンパク質と炭水化物および野菜を、それぞれ1/3ずつの割合にすることを推奨しています。野菜はビタミンやミネラルの補給になるだけではなく、胃を膨らませて満腹感を得るためにも役立つようです。

おわりに

ダイエットは本当に単純な足し算引き算で結果が決まるものです。足し算とは摂取するカロリーのことであり、引き算とは消費するカロリーを意味しています。間欠的ファスティングは、足し算(摂取するカロリー)を減らす方法です。摂取カロリーを毎日は減らさなくても、1週間単位1ヶ月単位で足し算、すなわち摂取カロリーを減らせばダイエットできます。毎日のカロリーを均等に減らすことは、より早くダイエットを達成できる反面、ファスティングの継続を難しくすることになるでしょう。ファスティングを継続して健康的にダイエットを成功させ続けるために、間欠的ファスティングは非常に有効な選択肢です。

というのも、間欠的ファスティングは空腹感を我慢する苦痛の程度が低いダイエット法だからです。人間は我慢すると必ずリバウンドします。これはダイエットに限ったことではありません。動物には行動の大原則があるのです。動物は、ある行動を行なっている最中か、その行動が終わってすぐに嫌なことがあると、その行動をしなくなってしまいます。ファスティングをして空腹感を我慢するという嫌なことが、我慢している最中に現在進行形でずっと生じています。この苦痛感が高度であると、嫌なことが生じるからしないという「動物の特性」が、痩せて健康になりたいという「人間の思い」を粉砕してしまうことになります。その結果、ファスティングを続けることを止めてしまうのです。ですから、空腹感の苦痛をできる限り小さくしていく必要があります。間欠的ファスティングは、この空腹感の苦痛を軽減する大きな手助けとなるはずです。

今までにダイエットに失敗した人も、空腹感を我慢するという苦痛が少ない間欠的ファスティングを、試してみてはいかがでしょうか?ひょっとすると、今までとは違った世界への扉が開かれるかもしれません。

筆者紹介:米澤利幸
島根医科大学(現島根大学医学部)卒業
福岡大学大学院修了(医学博士)
日本精神神経学会認定専門医
赤坂心療クリニック院長